一人会社の拠点、仕事場を、整理整頓し続けること。これは自営業者・一人社長にとっては必須のスキルなのだが、これについて上手に説明するテキストが無かったので自分が書くことにした。
読者としては、普段から片付けを得意としていないけれどもうっかり事業を始めてしまった人や、自分の生活環境なら片づけられるのに仕事用のスペースの片付けがうまくできない人を想定している。
業務環境を片付けるときの考え方をシンプルに書いてみよう。
SOHOにおける片付け
まず、一人または少人数でビジネスを行うSOHOにおける片付けは、大勢で仕事をする作業場とも、生活のための空間とも違う。
僕のオフィスは基本的に一人で仕事をする場所だ。業務内容は時々刻々とかわっていく。大量の製品を一気に捌くための場所ではないし、ゆったりした時間を何年も過ごす場所でもない。モノの最適な置き場所が、時々刻々と変化してゆき、その変化をコントロールすることが必要な場所なのである。
「ものの居場所を決める」が大切だと多くの人がいうけれども、このような場所での整理整頓ではそれでは不十分で、流動的に動くものをしっかり交通整理する必要がある。そのための指針が必要だ。
住んでいる場所はすでに決まっていて、そこを変更するつもりはないから、とりあえずモノを減らしましょうという態度でよいかもしれない。だが、「ものの置き場所を決めましょう」、「余裕のある空間を用意しましょう」、で許されるのは資源に十分な余裕がある場合だけだ。
僕のような商売人にとって、スペースは大切な資源なので、お金と同様に、無駄に使ってよいものではない。世の中のお片付けマニュアルは、おおよそ資源の有限性を無視している。事業を行うなら、空間は限界まで有効活用するべきで、有効活用した結果スペースに余剰があるならば、もっとコンパクトな不動産に移るほうがいい。
スペースが要らないならカネをとる。そうすれば、キャッシュフローに余裕ができるから、他のカタチでビジネスに余裕をもたせることができる。逆に、スペースが足りないなら、さっさと広いスペースに引っ越す必要がある。それで採算が合わなくなるなら、もはや事業を畳まなければならない。
ここをごまかしてしまうから、片づけようとしてもどうしてもしっくりこない、おかしな方針によって草臥れ、したがって再び散らかっていき、どうでもいいところでリソースを失い続け、消耗するのである。
居場所ではなく滞在時間でものを整理する
仕事場を片づけをする場合に重要な目標設定は、長期在庫と短期在庫、作業のために展開するもの、をしっかりと区分けして、それぞれにふさわしい密度・アクセス頻度を実現することにある。
長期的に必ず必要になる、ゆえに貯蔵しなければならない、そういう性質のものを先に片づける。いつも使う、頻繁に使うものの片づけは最後でよろしい。前者は空間充填率の最大化が重要だが、後者は動線の最適化が必要なので、両者はまったく区別しないといけない。
長期間貯蔵するものの片付けは空間充填率を高めることで空間をより広く生かせるようになる。頻繁に使うものは動線を最適化していく必要があるが、そのためには空間の自由度が必要だ。
普段あまり使わない貯蔵品こそ、先にしっかりとしまっていこう。つぎに、頻繁に使うものや品出しの必要な品物は、第一には見えるところに置くのである。そうすることで、後者を配置するにあたっての十分な空間を作り出すのだ。
処分するべきかどうか判断に迷ったものは、「片づけない」
「処分するべきかどうか判断にまよったものは、捨てましょう。」そういうアドバイスをする人は多い。だが、商売人がそんな雑な判断基準を採用してどうなるというのだろうか?
処分するべきかどうか判断に迷うとは、まだ活かし方が思いついていない状況であるということである。それならば、しまうのではなく、よく見えるところに展示するように置くべきだ。そして、それをどうやって生かすのか、あるいはどうやってカネに換えるのか、真剣に向き合うべきであろう。
最悪なのはこのように行き先の決まっていないものをとりあえずで収納棚の奥底にしまってしまうことである。収納されて見えなくなったものは忘れてしまう。それは永久にスペースを食い続けることになる。僕は商売人なので、それを利益に換える方法を考えなければならない。それが利益に変わらないなら、さっさと処分しないといけないのだ。
判断に迷うものは、よく見えるところに陳列し、それを組み合わせて何をするか考える時間をおこう。つまり、しばらく寝かせるなら見えるところで寝かせろということだ。そして、ついに役に立たないと判断したときは速やかに廃棄しよう。この流れをよどませてはならない。
許容できる手間で換金できるなら換金するのはいいアイディアだ。手待ち時間にネットオークションに出品するなどにより、現金化すれば、もっといいものを買うことができるようになるかもしれない。それができそうにないなら、ゴミとして廃棄しよう。
デッドスペースを生かす
普段使わないものを収納するために、デッドスペースをしっかり使う。そうすることでデッドスペースを生かすことができる。
一般に、デッドスペースとはアクセスしづらい場所だったり、形状が独特であるために汎用的に生かせないスペースである。だから、デッドスペースになるのだ。しかし、デッドスペースを生かすことができれば、それはもはやデッドスペースではなくなる。
デッドスペースを生かすには、そのくだらない場所に、確実に貯蔵が必要だけれどもしばらく使わないもの、使用頻度の低いものをしっかり収納することだ。デッドスペースを美しく生かすことができれば、それ自体が喜びになる。
デッドスペースを生かすことは、目の前の空間を片付けることよりもはるかに重要である。なぜならば、そうすることで使える生きた空間が広がるからだ。空間を広げることができるなら、自信をもって散らかすことができる。
生きた空間を散らかすことに躊躇しない
生きた空間を散らかすことに躊躇する必要はない。
あなたの居住空間全体がもやもやと散らかっていて、どこに何をつっこんだか分からなくなるような場所であるなら困る。
だが、しばらく使わないものがしっかりと収納された状態であるなら、あなたの目の前に散らかるのはすぐに使うものと、いつ使うのかよくわからないものである。そこからは、貯蔵することが必要で確実に大切なモノは取り除かれている。この状態こそが重要なのだ。
その空間は、あなたの遊び場なのだから、思う存分散らかせばよろしい。そして、何か成果をアウトプットするのだ。それこそがあなたの仕事なのだから、そこは躊躇なく楽しもうではないか。
よくわからないものは定期的に引っ張り出す
よく分からないものが入っている領域というのは自然に生じるものだ。そういうものに気づいたときには、躊躇なくひっぱりだそう。そして、見える場所に展開するのである。
よく分からないものが入っている領域というものができたということに気づくのが大切だ。そしてそういう場所はたくさんあってはならない。だから、気づいたらすぐに展開するのである。そして、展開したら、それらに息を吹き込もう。使うのか、捨てるのか、しっかり片付けるのか、判断をしていくのである。
とにもかくにも、見えないところにつっこまれてしまったもの、その経緯は仕方ないとしても、それを封印し続けるのはよくないのである。